ITAM・SAM基礎

今更聞けない、クラウド時代のIT資産管理とは

著者:イタムス株式会社 代表コンサルタント 武内烈(Oracle License Master / SLAM Master)|最終更新:2026年5月

「クラウドに移行すればライセンス管理は楽になる」——そう信じていた企業が、SaaSの乱立・クラウド費用の肥大化・ベンダー監査リスクの拡大という現実に直面しています。クラウド時代のIT資産管理(ITAM)は、従来のオンプレミス管理の延長では対応できません。本記事では、クラウドがITAMをどう変えたか、そして現実的な対応策を整理します。

クラウド化でITAMはどう変わったか

オンプレミス中心の時代、IT資産管理の主な対象は「物理サーバにインストールされたソフトウェア」でした。資産台帳に記載された固定的な資産を管理するモデルです。しかしクラウド時代には、管理すべき資産の性質が根本的に変化しています。

第一の変化は「資産の動的化」です。クラウド上のリソースは数分で作成・削除・変更されます。月次でインベントリを取る従来のアプローチでは、実態の把握が追いつきません。第二の変化は「調達の分散化」です。クラウドサービスはクレジットカード一枚で誰でも契約でき、IT部門が知らないSaaSが事業部門単位で導入されるシャドーIT問題が深刻化しています。

第三の変化は「ライセンスルールの複雑化」です。オンプレミスのライセンスをIaaS上で稼働させる場合、クラウド環境特有の適用ルールが生じます。OracleはAWSやAzureの一部のインスタンスタイプでのライセンス適用について独自の解釈を持ち、誤った運用をすると監査リスクが生じます。これらの変化に対応するため、ITAMの実践も根本的なアップデートが求められています。

クラウドSAMとオンプレSAMの根本的な違い

オンプレミスのSAMとクラウド環境のSAMは、管理の対象・手法・更新頻度のいずれにおいても根本的に異なります。この違いを理解しないまま従来の手法をクラウドに適用しようとすると、実態の把握に失敗します。

管理対象の違い。オンプレSAMは「インストールされたソフトウェア」を管理します。一方クラウドSAMは、IaaS上のライセンス持込み(BYOL)だけでなく、クラウドプロバイダが提供するマーケットプレイスライセンス、SaaSサブスクリプション、PaaSサービスの利用権など、多様な形態のライセンスを管理対象とします。

インベントリ取得方法の違い。オンプレでは、エージェントベースのツールがサーバにインストールされ、定期的にソフトウェアのインベントリを収集します。クラウドでは、クラウドプロバイダのAPIを通じてリソース情報をリアルタイムに取得するアプローチが基本となります。エージェントベースのみでは、APIで管理されるクラウドリソースの全体像を捕捉できません。

ライセンスポジション計算の違い。オンプレではインストール数とライセンス数の照合が基本ですが、クラウドでは稼働したインスタンスのスペック・時間・リージョンといった変数が加わります。特にOracleのクラウドライセンス適用ルールは複雑であり、専門的な解釈が必要です。

SaaS管理(SaaS Management Platform)の台頭

企業のSaaS利用は過去5年で急増しており、中規模企業でも100〜200のSaaSを利用しているケースが珍しくありません。このSaaSの乱立に対応するため、SaaS Management Platform(SMP)という新たなカテゴリのツールが台頭しています。

SMPは、組織が利用しているSaaSを自動的に検出し、契約・費用・利用状況・ユーザー数を一元管理するプラットフォームです。代表的な製品としてはLean IX、Torii、Beamなどがあります。従来のITAMツールがSaaS管理に対応しきれていない領域を補完する役割を果たしています。

SaaS管理の主要な課題は「シャドーSaaS」です。IT部門の承認なしに事業部門が独自に導入したSaaSは、セキュリティリスク(未承認ツールへのデータ流出)とコストの重複(同種ツールが複数部門でバラバラに契約)という二重の問題を引き起こします。SMPによる自動検出と可視化が、この問題への現実的な対応策となります。

ただし、SMPの導入自体がゴールではありません。検出されたSaaSについて「承認・継続・統廃合・廃止」を判断するガバナンスプロセスをSMPと連動させて設計することが、SaaS管理の実効性を左右します。

FinOpsとSAMの違いと連携の考え方

クラウド費用管理の文脈でFinOps(Financial Operations)という概念が広まっています。FinOpsとSAMはどちらも「クラウド支出の最適化」を扱いますが、その焦点と手法は異なります。この違いを理解した上で連携を設計することが重要です。

FinOpsの焦点。FinOpsは主にIaaS(AWS・Azure・GCP等)のインフラ費用の最適化を対象とします。リザーブドインスタンスとオンデマンドの使い分け、未使用リソースの削除、コストアロケーションの精緻化などが主要なアクティビティです。費用の可視化とエンジニアリングチームへのコスト意識の浸透が中心テーマです。

SAMの焦点。SAMはソフトウェアライセンスの権利と義務の管理が中心です。クラウド文脈では、IaaSへのBYOLライセンスの適正な適用、SaaSサブスクリプションの利用状況と契約数の照合、ライセンスコンプライアンスリスクの管理が主なスコープです。ベンダーとの契約・法的義務の観点が強く含まれます。

連携のポイント。FinOpsとSAMは相互補完の関係にあります。FinOpsチームがリソースの削減を検討する際、SAMチームが「そのリソースにはBYOLライセンスが紐づいているか」「削除した場合のライセンス処理はどうするか」を確認する連携フローが必要です。また、SaaSのサブスクリプション費用はFinOpsの管理範囲とSAMの管理範囲が重なる領域であり、双方のチームが定期的に情報を共有する体制が求められます。

クラウド環境でのIT資産管理:現実的な導入ロードマップ

クラウドITAMの全体像を一度に整備しようとすると、スコープが広すぎて頓挫するケースが多くあります。現実的には段階的なアプローチが有効です。

フェーズ1:可視化(0〜3か月)。まず自社のクラウド利用全体の棚卸しから始めます。利用中のIaaSプロバイダ・SaaSサービスを網羅的にリストアップし、契約・費用・利用部門・担当者を一覧化します。この段階での目標は「何があるかを知ること」です。完璧なデータより、全体像の把握を優先します。

フェーズ2:ハイリスク領域の優先対応(3〜6か月)。棚卸し結果をもとに、ライセンスリスクが高い領域(IaaS上のOracle・IBM製品のBYOL、ライセンスモデルが変更されたSaaS等)を優先的に精査します。コンプライアンスリスクの大きさと費用規模を基準に優先順位をつけ、集中的に対応します。

フェーズ3:プロセスの制度化(6〜12か月)。新規クラウドサービス導入の承認フロー、SaaSの定期レビュープロセス、クラウドコストとライセンスの統合レポーティングを制度化します。FinOpsチームとの定期的な連携会議を設定し、クラウドITAMを組織の継続的な運用に組み込みます。

クラウドITAMは技術・契約・財務が複合する領域であり、社内リソースだけで全体を把握・対応するには限界があります。現状アセスメントから始め、専門家のサポートを活用しながら段階的に体制を整えることが、持続可能なクラウドITAMの実現への近道です。

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